基準吸引量
検知管の多くは、100mlの吸引量を基準に濃度目盛を決定しています。しかし、気体の種類や測定濃度により、50ml、200ml、300ml、400ml、500mlの吸引量を要する場合もあり、その検知管に関しては、それぞれの吸引量を基準に濃度目盛を決定。吸引量は、たとえば100ml=基準吸引回数1回、500ml=基準吸引回数5回と、検知管のパッケージ表ラベル、又は取扱説明書に吸引回数で表示しています。
測定範囲の拡張
ガステック検知管の多くは、一定の基準内で測定範囲が拡げられます。目盛に達しない低濃度、または目盛を超える高濃度の場合、以下の方法で測定します。
変色層が最低目盛に達しない場合 | 裏ラベル又は取扱説明書に記載されている吸引回数のうち最も大きい数値の回数まで、吸引を繰り返します。変色した場合、指示値を読み、係数(裏ラベル又は取扱説明書に記載)を掛け、濃度を求めます。 |
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変色層が最高目盛を超える場合 | 検知管を交換し、裏ラベル又は取扱説明書に記載されている吸引回数のうち基準よりも小さい数値の回数で吸引をします。変色層が最高目盛以下になった場合、指示値を読み、係数(裏ラベル又は取扱説明書に記載)を掛け、濃度を求めます。 |
測定誤差
測定結果には、わずかながら必ずバラツキ(誤差)があります。このバラツキには、検知管自体がもつランダム誤差(random errors)と、メーカーや測定者のミスによって生じる定誤差(systematic errors)があり、その要因は次の通りです。
ランダム誤差
正常な検知管で一定濃度の気体を測定した場合、指示値は、平均値を中心にバラツキます。その程度は検知管の種類によりさまざまですが、ガステックではバラツキの評価に、個々の検知管の標準偏差と平均値から求めた変動係数を採用し、指示精度として検知管個別情報ページに記載しています。
ランダム誤差の要因は次の2つです。
- 検知管自体(内径、充填密度、反応力など)のバラツキ
- 測定者による読み取り誤差
定誤差
定誤差は、メーカーや使用者のミスによるもので、注意により解消することができます。要因は、主に次の4つです。
- 気体採取器に漏れがある
- 検知管の目盛が正確でない
- 取り扱いにミスがある(保管、使用温度、測定時間など)
- 共存ガスに影響されている
反応原理
検知管は、化学反応による変色作用を利用した測定法で、その反応僚理は、大きく以下の3つのタイプに分類できます。
単一反応 | 直接的な反応をする検知剤を充てんしたタイプで、対象気体と検知剤の単一反応により変色層をつくります。 |
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複合反応 | 2~3種類の試薬を含む、間接的な反応をする検知剤を充てんしたタイプで、対象気体と検知剤の瞬間的な複合反応により変色層をつくります。 |
二段反応 | 前段に酸化剤等の前処理剤、後段に検知剤を充てんしたタイプで、前段の前処理剤で対象気体を分解し、その生成物質を後段の検知剤で再度反応させ変色層をつくります。 |
温度の影響
検知管は種類により、指示値に温度の影響を受けるものと受けないものがあります。以下では、温度影響への対応と、温度の変化による影響を説明します。
温度影響への対応
検知管の濃度目盛は、検知管の温度が20℃の状態で決定されます。これ以外の温度は、実測試験の結果、±10%以上の誤差が生じた場合のみ、温度補正(パッケージ裏ラベル、又は取扱い説明書に記載)を用意し、指示値の補正で対応しています。
温度補正表(例:No.135 1,1,1-トリクロロエタン)
温度℃ | 0 | 5 | 10 | 15 | 20 | 25 | 30 | 35 | 40 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
補正係数 | 2.3 | 1.75 | 1.4 | 1.2 | 1.0 | 0.85 | 0.7 | 0.6 | 0.5 |
温度補正表(例:No.133M テトラクロロエチレン)
読み | 真の値(ppm) | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
(ppm) | 0℃ | 5℃ | 10℃ | 15℃ | 20℃ | 25℃ | 30℃ | 35℃ | 40℃ |
100 | 410 | 240 | 155 | 115 | 100 | 90 | 80 | 73 | 65 |
80 | 310 | 190 | 125 | 95 | 80 | 73 | 65 | 58 | 50 |
60 | 210 | 140 | 95 | 70 | 60 | 55 | 50 | 45 | 40 |
40 | 130 | 85 | 60 | 45 | 40 | 38 | 35 | 30 | 25 |
20 | 55 | 40 | 30 | 24 | 20 | 18 | 17 | 16 | 15 |
10 | 20 | 16 | 13 | 11.5 | 10 | 9 | 8 | 7.5 | 7 |
5 | 8 | 7 | 6 | 5.5 | 5 | 4.5 | 4 | 3.5 | 3 |
温度の変化による影響
大きく、次の1・2の現象が起こりますが、温度の変化による影響は1の要因に支配されることが多いです。
温度による 物理的吸着力の変化 |
温度に左右されるものとして、検知剤に対する対象気体の物理的吸着量の変化があります。一般的に物理的吸着量は、温度が低下するほど増大します。従って、低温の場合、先に反応し変色した検知剤に、後からくる未反応の対象気体が吸着し、奥に到達しなくなります。このため、変色層は短くなり、指示値は低目を示します。 もちろん、温度が上昇した場合は逆の現象となります。 例:(No.)1La、100B、171 |
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温度による 反応速度の変化 |
検知剤と気体の反応速度は、温度に左右されます。一般的に、反応速度は温度が低下するほど遅く、逆に、温度が上昇するほど速くなります。 |
試料気体の温度は、吸引されたと同時に、検知管の温度と同じになります。従って、「温度」とは、検知管の温度であり、測定対象気体の温度ではありません。
たとえば検知管を一定時間、雰囲気になじませた場合、検知管温度=雰囲気温度となり、このとき、温度補正も雰囲気温度が基準となります。逆に、冷蔵庫などから取り出した直後の検知管は、庫内の温度に等しく、そのまま測定すると誤った測定値になります。ご注意ください。
湿度の影響
ほとんどの検知管は、通常の相対湿度(0~90%)では測定値に影響ありません。しかし、ごく一部の検知管は湿度の影響を受けるため、以下に湿度の影響を受ける検知管と、受けない検知管について説明します。なお、相対湿度が100%以上(過飽和)の場合は、水蒸気の凝縮がおこり、水溶性の気体(例えば塩化水素)では、ガス濃度が低下し、正確な測定はできません。
湿度の影響を受けない検知管
影響を受けない理由は、大きく2つあります。
反応試薬が水溶液の検知管 |
検知管の担体に含まれる反応試薬の状態は、一般的に水溶液です。この場合、測定対象気体と試薬の反応は”気-液反応”となります。水蒸気は試薬の濃度をわずかに変化させる可能性がありますが、試薬は水溶液状態のままであり、しかも絶対量も変化しないため、指示値に影響ありません。 例:(No.)1LA、2L、4LL、8LA |
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濃硫酸、除湿剤を使用した検知管 |
検知剤や酸化剤に濃硫酸を使用している場合、また除湿剤を使用している場合は、濃硫酸や除湿剤が水蒸気を吸収するため、指示値に影響ありません。(一部例外があります) 例:(No.)1H、13、14M、71、91、122、132L |
湿度の影響を受ける検知管
わずかに、数種類です。検知管No.15L・17・185については相対湿度50%、検知管No137については絶対湿度10mg/lを基準に濃度目盛を決定。温度補正と同様、湿度補正(パッケージ裏ラベル、又は取扱い説明書に記載)で対応しています。
(例:(No.) 15L、17、137、185)
気圧の影響
検知管の濃度目盛は、約1気圧(1013ヘクトパスカル)で決定されており、1気圧±10%の範囲(912~1114ヘクトパスカル)まで指示値に影響ありません。ただし、この範囲を越えると指示値が影響を受けます。以下では、気圧影響の原因と、それへの対応を説明します。
気圧影響の原因
気体の密度は、気圧に影響されます。このため、通常の気体の濃度表示は、すべて1気圧を前提としています。一般的に、気体は気圧が高くなれば密度が濃く、低くなれば密度が薄くなります。よく、高い山の上などは酸素が薄いといわれますが、これも気圧が低く、酸素の密度が薄くなっているためです。従って、1気圧を基準とした場合、低気圧下では指示値が低下し、逆に高気圧下では指示値が高まります。
気圧影響への対応
たとえば海抜千メートルの高地や、高気圧下の土木作業(圧気工法)など、気圧が通常とかけ離れている場合、指示値の補正が必要となります。補正は、次式の通りです。
真の濃度=指示値×1013(hPa)/測定点の気圧(hPa)
干渉ガス
干渉ガスとは、試料ガス中に対象ガスとは別のガスが共存する場合に測定に影響をおよぼすガスのことです。その影響は検知管のタイプにより、それぞれ以下の通りです。
共存物質の影響(1)
対象ガスと同様の性質を持つ同属の物質による影響
検知剤が干渉ガスに対して対象ガスと同様の反応をし、変色も対象気体と同様で指示値を高めます。
- メタノール検知管に対する他のアルコール
- 酢酸エチル検知管に対する他の有機溶剤
- トルエン検知管に対する芳香族炭化水素
- アンモニア検知管に対するアミン類
- トリクロロエチレン検知管に対する不飽和ハロゲン化炭化水素
共存物質の影響(2)
反応生成物と同様の物質による影響
酸化剤などの反応剤と反応して生成する物質を検知している検知管の場合、干渉ガスとして反応生成物と同様の物質が存在すると、干渉ガスは直接検知剤と反応し、指示値を高めます。
- トリクロロエチレン検知管に対する塩化水素
- 硫化水素検知管(No.4LT、4LB)に対する塩化水素
共存物質の影響(3)
単独では変色しないが、対象検知管の物質の反応を阻害する物質の影響
例えばアセトアルデヒド検知管では、アンモニアが共存するとアセトアルデヒドと検知剤の反応で生成したリン酸を中和し、変色を元に戻すため低い値を示します。
- アセトアルデヒド検知管(No.92,92M)に対するアンモニア
- 硫化水素検知管(No.4LL)に対する二酸化窒素
- アンモニア検知管(No.3L)に対する高濃度(数%)二酸化炭素
共存物質の影響(4)
単独では変色しないが、検知管の酸化剤を劣化(消費)させる物質の影響
干渉ガスが酸化剤と反応するため、本来の酸化能力が不足し、指示値を低下させます。
- トリクロロエチレン検知管に対する芳香族炭化水素
- 塩化ビニル検知管(No.131La)に対する芳香族炭化水素
共存物質の影響(5)
単独では変色しないが、対象検知管の物質の反応を阻害する物質の影響
例えばベンゼン検知管では、高濃度の炭化水素が共存すると、ベンゼンの変色を薄くし境界を不鮮明にし、高い値を示します。また、炭化水素により、検知剤はリング状に変色します。
- ベンゼン検知管(No.121)に対する高濃度の炭化水素類の影響
検知管の保管
検知管は、指定された保管条件で保管された有効期限内のものをお使いください。有効期限が過ぎたものや指定以外の条件下で保管された検知管を用いると、誤った測定値を生じます。
一般的には直射日光を避けてできるだけ温度の低い場所で保管します。また、使用済みの検知管も含めて、子供の目や手に触れない対策を施し、安全な場所に保管してください。
検知管の廃棄
使い終わった気体検知管又は期限切れ等の気体検知管を廃棄する時は、『廃棄物の処理および清掃に関する法律』等の法令に従って処理する必要があります。気体検知管は、ガラス管の中に特定の気体と反応させるための試薬が入っています。この試薬は、気体検知管の種類によって異なり、中には、法令で指定している有害産業廃棄物が含まれる場合があります。従って、気体検知管個々の取扱説明書の表示により処分してください。表示のない場合は、弊社ホームページ参考資料「検知管の廃棄方法」をご確認いただくか、お近くの弊社営業所までお問い合わせください。
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検知管式測定器について
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気体測定の一般知識
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参考資料